カチカの岩塩抗 (ルーマニア)

SALINA CACICA
(ROMANIA)

地元民の憩いの場、カチカの岩塩抗

ルーマニアは、複数の国と陸続きで、過去には、オスマントルコやハプスブルグ家、ロシアの支配を受けた歴史も持ち、地方ごとの個性が非常に豊かな国です。

国土の隅々まで、見どころも多い中、北部東よりのブコヴィナ地方は、鮮やかなフレスコ画が壁を覆う修道院群が有名で特に人気の高い場所です。これらは、16世紀モルドヴァ公国時代に建てられたもので、そのうち8つはユネスコの世界文化遺産にも登録されています。

カチカ岩塩抗への入り口がある建物

ブコヴィナに来るからには、もちろんこれらの修道院巡りもルートから外せません。けれども、お寺やお城、美術館と同じように、どんな名作も、一日に複数を、しかも数日見て回っていると、だんだん感動のボルテージも下がるというもの。

そんな時、ぜひ思い出してもらいたいのが、このカチカの岩塩抗です。
場所は、修道院群巡りの拠点となるSuceava(スチャヴァ)の西方約40キロの距離。

もともとこの場所は、古くから塩水が湧き出ることで知られており、僧侶が訪れることも多かったといいます。その後、岩塩が見つかり、発掘を始めたのは1790年頃のこと。岩塩抗といえば、ポーランドのヴィエリチカが有名ですが、カチカの岩塩抗発掘のために移住してきたのは、そのヴィエリチカで経験を積んだ、ポーランド人20家族と、ウクライナ人4家族でした。

カチカ岩塩抗の特徴は、なんといってもすべてが手掘りであるということ。機械を一切使わず掘っていった場所で、今でもアクセスは木造の階段のみ。外から見るとなんてことはない建物から、人がすれ違うのも難しい狭い階段を下りていきます。

木造の狭い階段を下りていく。

ちょっとたじろぐ狭さと暗さですが、その奥には、この入り口からは想像もつかない塩の結晶の世界が広がっています。

最初に行きつく広いスペースは、ローマンカトリックの聖バルバラチャペル。地表から27mの深さに位置します。このチャペルが作られた1806年当時は、カチカの村には教会がなかったそうで、カトリック信者のポーランド人が、主になって作ったのだろうと想像できます。
また、35mの深さには、ルーマニア正教のチャペルも続いていて、この辺りは、壁に、作業の合間に刻んだのであろう彫刻がいくつも残っています。

聖バルバラのチャペル
壁のあちらこちらに残る彫刻

 

もっと進んだ先には、塩の人口湖があります。塩の結晶が覆いかぶさるように周りを埋めていて、不思議な静寂を感じる場所です。

その近くにあるのが、なんとダンスホール。塩の塊を利用したシャンデリアがつるされていて、なかなか本格的な外観。実際、パーティやプロムに用いられてきました。

踊りだしたくなるダンスホール

先へ進むと、山小屋やピクニックのできる広場もありますが、すべて塩の結晶で覆われているので、なんだか雪山にいるような気分になります。中の気温は一年を通して10度と一定しており、1975年から1993年には、チーズの熟成場としても利用されていました。
今は、灼熱の夏は涼を、玄関の冬は暖を求めて、地元民が集う場所となっています。また、地元では、岩塩抗内の空気は身体によいとも信じられているそうで、一日何もせず、のんびりベンチに座っておしゃべりに興じるために来る人も少なくないようです。

一番の圧巻は、奥にあるスポーツグラウンド。バレーボール、サッカー、テニスなど、球技が楽しめる、実に広い空間があるのです。どこかの体育館のような風景に、思わず一瞬、えっと、ここはどこだったっけ?と自問してしまったほどです。

球技に興じる人々
塩の結晶が雪のよう。ピクニックを楽しむ地元民

開場時間は、毎日9時―17時。
入場料は、大人10レイ、子供(3-14歳)5レイ

なお、階段約150段の上がり降りがあり、エレベータなどはありませんので、歩きやすい出で立ちでおいでください。

about the navigator

冠ゆき
山田流箏曲名取。1994年より海外在住。
多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。
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