LE BLOCKHAUS D’ÉPERLECQUES
(FRANCE)
世界最初の弾道ミサイルが生まれた場所、大西洋の壁ブンカー
「大西洋の壁」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
それは、第二次世界大戦中、ヒトラーが強力に推進した政策のひとつ。一言で言えば、北欧からフランス・スペイン国境まで、海岸線の要所要所に、砲台や要塞を建て、海からの攻撃に備える作戦でした。
結局、完成を見ることはなかった「大西洋の壁」ですが、今でも海岸からかなり内陸部まで、そこここに、コンクリートの塊と化した要塞を見ることができます。風光明媚な景色の中に、壊れかかったコンクリートの塊がどっしりと腰を据えている様は、或る意味、非常にシュールで、何度見ても慣れることがありません。
これらの置き土産は、フランスではブンケル(英語bunkerのフランス語読み)もしくはブロコス(ドイツ語blockhausのフランス語読み)と呼ばれていて、大抵は無用の長物然と打ち捨てられています。私有地でなければ自由に出入りできるとあり、肝試しのように、明かりもない内部に入ったり、よじ登ったりする人もいますが、崩落の恐れが高い場所もあるので、ひとりでは立ち入らない方が無難でしょう。
またそのうちのいくつかは、博物館として各地で公開されています。そのうちの一つが、ここエペルレックのブンカーです。このブンカーは、規模の大きさも注目に値しますが、何よりも、V1飛行爆弾とV2弾道ミサイルの最初のベースとして知られる場所です。特にV2は、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツが世界に先駆けて開発した弾道ミサイルで、このブンカーが、組み立て工場とされました。
エペルレックの森に隠れるように、ブンカー建設工事が始まったのは、1943年3月のこと。ただし、連合軍はいち早くそれを察し、その夏には早くも最初の空爆を仕掛けています。
現在、この博物館では、激しい爆撃の痕が残るブンカーと、空爆で地形の変わった植生の様子、また、当時の各種兵器や、歴史についての説明を、ビデオ、音声、図解などで見ることができます。また、この場所で強制労働させられた捕虜たちの宿舎も再現されており、その苛酷な環境を垣間見ることができます。
まだ生々しい歴史の傷痕に触れるようなこの施設、歴史好きにはもちろんのこと、予備知識がない人にも、多くを物語ってくれる博物館と言えるでしょう。