CHIESA DI SANTA MARIA PRESSO
SAN SATIRO
(ITALY)
何の変哲もない教会……
見どころはなんと「トリックアート」!?
ミラノの中心街に建てられた、ごく普通の教会
カトリックの総本山であるイタリアには、街中のいたるところに教会が建てられています。有名なのはバチカンの「サン・ピエトロ大聖堂」やミラノの「ドゥオモ」などですが、それ以外にもさまざまな特徴や歴史をもった教会があり、一つひとつ見ていくだけでも楽しいもの。今回はミラノの街角で見つけた、それほど有名ではないけれどユニークな特徴のある教会をご紹介しましょう。
その教会の名前は「サンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ教会」といい、ミラノの中心であるドゥオモから歩いてほんの2~3分ほどの場所に建てられています。観光地として多くの人が訪れる他の教会に比べると外見も地味で(失礼)、さらに通りから少し奥まった場所にあるため、気付かず通り過ぎる人も多いかもしれません。
建物の内部は歴史やキリスト教文化がかもし出す独特の雰囲気はあるものの、こちらも他の教会と比べてこれといった違いもなく、平凡な雰囲気。「ユニークな特徴」は、一体どこにあるのでしょうか?
よーく見てみると、祭壇が変だ
とはいえすでにタイトル部分でネタバレしていますが……この教会の特徴はなんと、祭壇部分が「トリックアート」で描かれていることにあります。
建物に入って正面から聖堂を眺めただけではまず分かりませんが、そのまま真っすぐ歩いて祭壇に近づいてみると、なぜか壁が迫ってくるような感覚を感じます。不思議に思いながらさらに近づいてみると、祭壇の上部に描かれたアーチがトリックアートになっていて、実物以上に奥行きがあるように見せかけている(!)ことに気付くでしょう。
それもそのはずで、正面から見れば何メートルもあるように見える祭壇は、実際は奥行きたったの97cmしかなく、信者が座る席と壁の間にビッタリと収まるようにして配されているのです。正面からは気付きにくいですが、祭壇に近づいて斜めからよーく見てみると、目の錯覚を利用していることがよく分かります。
教会で最も大切な祭壇が「トリックアート」で描かれているなんて、ちょっとびっくりするような話ですが、このユニークな構造が話題となって、ちょっとした観光スポットになっているのです。
「だまし絵」の教会に秘められた歴史とは?
このユニークな教会が建てられたのはルネッサンス期のこと。当時を代表する建築家であるドナト・ブラマンテによるものとされています。日本ではあまり有名ではありませんが、「最後の晩餐」で有名なサンタ・マリア・デッレ・グラッツィエ教会の建設に携わったり、サン・ピエトロ大聖堂の建築主任を務めたりと、それだけでも非常に高名な建築家であったことがうかがえる人物です。
このサンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ教会の祭壇をトリックアートにしたのも、このドナト・ブラマンテのアイデアと言われていますが、その理由はなんと「スペースがなかった」というもの。敷地がT字型になっているため祭壇の後陣を作ることができず、そのため遠近法を用いたトリックアートを描いて、祭壇に奥行きがあるように見せかけたのだとか。
当時の教会といえばかなりの権力を有しており、建築のみならず絵画、彫刻などあらゆる美術作品が集まる場所であったはず。そんな空間の内装を「スペースがないからトリックアートにしましょう」なんて言い出したブラマンテの発想もすごいですが、それを認めた教会もなんともおおらか。いったいどんなやり取りがあったのだろうと想像してみると、笑ってしまいそうになるのは私だけでしょうか。
実物は写真で見るよりももっと不思議で、なんとも奇妙な感じのする空間です。ある意味ではサン・ピエトロ大聖堂やドゥオモよりもっと興味深いサンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ教会。ミラノにお立ち寄りの際は、ぜひ足を運んでみてください。