CIMITIRUL VESEL
(ROMANIA)
サプンツァの陽気な墓地
ルーマニアの国土面積は、日本の六割ほどにすぎませんが、実は、かなり地方色が多彩な国です。
考えてみればそれもそのはず。ハンガリー、ウクライナ、モルドヴァ、ブルガリア、セルビアなど複数の国と国境を接していますし、過去には、オスマントルコやハプスブルク家、ロシアなどの支配を受けた歴史を背負っています。
木彫りの盛んな北方の村サプンツァ
そのルーマニアの北方、ウクライナと国境を接する小さな村がサプンツァです。ルーマニアの中でも僻地と言えるこの小さな村には、なんと、世界中から観光客の訪れる「お墓」があります。その名は「陽気な墓」。
いったい何が陽気なのか?墓地に足を踏み入れてみれば一目瞭然。
なにしろ、この墓地には、ブルーを基調にカラフルな色の溢れかえる墓標が所狭しと並んでいるのです。どれも細かな木彫り細工で、丁寧に彩色されています。
もともとこの地方は木彫りが盛んで、教会以外でも、門や窓枠などに木彫り細工が使われるような土地。けれども、ここまで凝った墓標は、このサプンツァの墓地でしか見ることができません。
生きた証を語る墓標
ひとつひとつ眺めてみると、丁寧に描かれているのは、そこに眠る人の生きた記録の数々だとわかります。「こんなことが得意だった」「こんな仕事をしていた」「こんな風に家族に愛されていた」それぞれのエピソードが、彩色されたレリーフとともに、文字でも記されています。ゆっくり墓地を廻っていると、まるで分厚い絵本を読んでいるような気分になってきます。
どの墓標も、故人の生きた証。墓地でありながら、「死」ではなく、「生」を紐解く場所となっているのが非常に印象的な場所です。
80年以上前、この陽気な墓を作り始めたのは、今は亡きスタン・イオン・パトラッシュ氏。陽気な墓地には、パトラッシュ氏自身のお墓も並んでいます。
陽気な墓標の生まれる工房
墓地から300メートルほど行った場所には、故パトラッシュ氏の家が残っており、氏の作品や功績が並ぶ小さな博物館となっています。家のすぐ脇には工房があり、今も、弟子のひとり、ドゥミトリ・ポップ氏がカラフルな墓標を作り続けています。
はるばるサプンツァまで足を運ぶ人には、是非とも、陽気な墓標の生まれ出るこの工房も訪れてほしいものです。